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胎盤早期剥離による胎児の死亡

http://www.asahi.com/national/update/0928/NGY200809280001.htmlの「asahi.com朝日新聞社):お産中3時間半放置、胎児死亡 三重の医院、謝罪し賠償 - 社会」に関して。

お産の途中で約3時間半も放置されたため胎児が死亡したとして、三重県四日市市の若林真奈美さん(47)と一道さん(49)の夫妻が同市内の産婦人科医院と院長の男性医師(68)を相手取り、約8600万円の損害賠償を求めた訴訟の和解が26日、津地裁四日市支部(安間雅夫裁判長)で成立した。医師側が過失を全面的に認め、賠償金を支払うことで合意。院長は法廷で「本当に申し訳ございません」と謝罪した。

 医院と院長は01〜03年に4件の医療過誤で提訴され、2件で過失を認め和解、今回は3件目。麻酔薬の投与ミスで女性が死亡したとされる1件は係争中で、院長は業務上過失致死罪で罰金刑を受けている。

 和解条項などによると、真奈美さんは00年9月、出産のため同医院に入院。院長は胎児を吸引する分娩(ぶんべん)方法を試みたが成功せず、「自然経過を見る」として分娩室から外出するなど約3時間半も母子を放置した。このため真奈美さんは胎盤早期剥離(はくり)を発症、死産となった。

http://www.asahi.com/national/update/0928/NGY200809280001.html


一般的に胎盤早期剥離の原因はよくわかっていないようで、記事にあるように放置したことが原因とは考えにくいのではと思います。もし、医師がいないあいだに胎盤早期剥離が起こったとしたら処置の遅れの原因にはなるかもしれませんが。
また今回の件がそうだったというのではありませんが、病院に来たときには胎盤早期剥離によって胎児が死亡していることもあるようです。
症状も、強い腹痛や出血が伴う場合もあれば特に痛くも無いし出血も無いこともあるようです。そして、胎児だけでなく妊婦も死亡することもあるようです。


参考リンク
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20080503「常位胎盤早期剥離 - 新小児科医のつぶやき」
http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2006/01/post_754a.html「ある産婦人科医のひとりごと 常位胎盤早期剥離について」


今回の事件の場合は、医師が過失を認めて和解が成立しているので責任の所在は明らかにも見えますが、そうとも限りません。福島県大野病院事件でも、病院の出した事故調査報告書で主治医の過失があったように書かれていましたが、これは賠償金の支払いの為だったという意味の発言が後に院長からなされたりもしています。最近では、医師の過失が無かった場合にも支払われる保険の導入が進められているようですが、それ以前は過失がないと保険が支払われなかったわけです。
そういったことから考えると、民事裁判や和解交渉で過失があったとされたことイコール医学的に考えて過失があったとはならないのではと思うのです。また、リピーター医師ということが記事に書かれています。事故が多発しているのは事実としても、それだけで医師の技量に問題があるとは限りません。これも個別の事件の内容について、平均的な技量の医師であれば起きなかったのか、それともそうではなかったのかという検証が必要になるからです。産婦人科医会が会員から事故の報告を受けて指導や研修を行ったり、場合によっては除名も含めた処分を行うというようになったという数年前の記事が検索したら見つかりました。現在どうなっているのかはよくわかりませんでした。

ただし、医療事故・医事紛争の多い診療科である産婦人科としては、その運用によっては崩壊に繋がりかねないと危機感を覚えています。従来処分されていた刑事事件、医療費の不正請求、医療法医師法に抵触する場合や、重大で100%近い過失、同じ医療行為によるリピーターに対する処分等に限定されるべきと考えます。刑事裁判にならない民事裁判では、医療事故の責任は明白でなく、即ち100%黒、100%白ではなく、灰色の部分が大部分です。また、ただ、リピーターであることを理由に処分するのは危険です。事故の、ひとつひとつをよく検討した上で、処分に価するリピーターかどうか判断する必要があります。

http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H15/030721.htm

このような状況を踏まえ、産婦人科医の専門団体である日本産婦人科医会には、医療事故のリピーターに対する自浄作用が要求されています。そこで、医会として、昨年より医療事故のリピーター対策と医療事故防止のために検討を続けて参りました。当初は、リピーター対策が発端でした。医療事故の原因が過誤によるものか、そうでないかを詳細に検討する必要があること、事故事例の正確な情報を収集しなければならないこと、などから、「医療事故報告」の事業を開始することにしました。
 この目的は、医療事故が本当に過誤によるものか、過誤によるものであるならどこが問題であったか検討し、反省し、対策を練り、医療レベルを確保すると共に、医師の倫理感の向上を目指すために研修を行うことにあります。そのことにより全体としての医療レベルを上げ、安全で、安心な医療を国民に提供することです。
 この事業は本年4月から開始する予定です。

http://www.jaog.or.jp/japanese/MEMBERS/TANPA/H16/040315.htm


参考リンク
http://www.jaog.or.jp/「社団法人日本産婦人科医会」


今回の記事の事件が起こったのは2000年なので、産婦人科医会の対策が行われるよりも前のことなのですが、それでも何らかの見解が欲しいところです。「福島県大野病院事件判決について(8月20日)」の中にはこう書かれているからです。

医療事故の死因究明は、本来、医療の専門家である医師に委ねられるべきです。

http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/kenkai/20Aug2008.pdf


医療の専門家が判断した結果について知りたいところです。今回の事件が問題ありと断定するわけではありませんが、過失が無い場合に「無い」と言うだけでなく、過失が有る場合にも「ある」と言わなければあまり信用されないのではと思います。