自然の中のe(1)
はじめに
この話は63.2%の憂鬱(1)〜(5)の続編として書かれていますが、内容としては単独で読んでも大丈夫です。
自然対数の底e
「自然対数の底ってずいぶん長ったらしい言い方よね。」
彼女はそう言って口を尖らせた。そもそもどうして自然対数の底の話になったかというと、e^xは微分してもe^xだという話から。
「ネイピア数という言い方もあるみたいだけど。」
ネイピアは対数の研究をした数学者ではあるが、eを発見したわけでは無いらしい。eを使うようにしたのはオイラーだったかな。
「それはともかく、自然対数というのも不思議。」
と彼女。
「不思議って、どうして。」
「何が自然なのかってことよ。」
「自然か。常用対数というのもあるけどこれは底が10。どうして10かというと、僕らが十進数を使っているから。自然対数の場合は、どうしてなんだろう。e^xが微分しやすいからかな。」
僕もよくわからないことだったので、あやふやに思ったことを答えた。
「数学的に便利なのかもしれないけど、それが自然ということはないわよね。それとも自然の中にeが見つかることがあるのかしら、この前のプレゼント交換のときみたいに。」
「うーん、どうなんだろう。」
僕は考え込んだ。確かに、プレゼント交換の組み合わせについて考えていたときにeが登場したのには驚いたけど、他にもそういったことがあるんだろうか。
サイコロの目
家に帰っても考えていたのだけど進展は何も無かったので、夕食のときに父親にきいてみた。
「自然対数の底eが、自然の中に見つかるかどうか、か。」
父親は、そういって首をひねっていたが何か思いついたようで、
「1/xの積分で自然対数がでてくるな。」
と続けた。そういえばそうだ。人間が底を選んだのではなく、計算の結果として自然対数が登場するのだから必然だ。
「でもこれもe^xの微分がe^xになることと似たようなものか。」
そう言われてみると、指数と対数だから関数と逆関数の関係なのか。これでは説明として弱い。
しばしの沈黙。
「この前の話と似てるけど、サイコロの目でもeが出てくるな。」
と父親が口を開いた。
「どういうこと?」
と聞くと、
「サイコロを6回振って、一度も1がでない場合の確率は?」
逆に質問された。
「5/6の6乗だよね。」
単純な問題だ。
「それは具体的にはいくつ位かな。」
と続けてきかれたので電卓を使って計算してみる。約0.334で、それがどうしたと聞こうとしたが口を開く前に思い当たり逆数をとった。約2.985で少し違う。
「eとは少し違うね。」
「6の場合はね。」
そうか、サイコロは通常6面だけども数を増やして考えることも可能だから、どんどん数を増やしていくと前のようにeに近づいていくかもしれない。それを確かめるには電卓では難しい。
「ありがとう。」
父親に礼を言って、自分の部屋に向かった。パソコンの表計算ソフトを使って確かめるためだ。
確率の逆数と公式
サイコロが6面の場合は、5/6の6乗なのだから、n面の場合にn回振った場合の確率は(n−1)/nのn乗になる。適当な数を選んで、それぞれの確率と逆数を表示させてみた。確かに数が大きくなるに従って、eの値2.71828182845…、に近くなっている。しかしそれだけでは不十分で、eに収束するかどうかを確かめないと…。
x | f(x)=((x-1)/x)^x | 1/f(x) |
---|---|---|
2 | 0.25 | 4 |
3 | 0.296296296 | 3.375 |
4 | 0.31640625 | 3.160493827 |
5 | 0.32768 | 3.051757813 |
6 | 0.334897977 | 2.985984 |
7 | 0.339916677 | 2.941897434 |
8 | 0.343608916 | 2.910285368 |
9 | 0.346439416 | 2.886507578 |
10 | 0.34867844 | 2.867971991 |
11 | 0.350493899 | 2.853116706 |
12 | 0.351995628 | 2.840944377 |
13 | 0.353258498 | 2.830788231 |
14 | 0.35433531 | 2.822185572 |
15 | 0.355264366 | 2.814805239 |
16 | 0.35607413 | 2.808403966 |
17 | 0.356786195 | 2.802799028 |
18 | 0.357417237 | 2.797850515 |
19 | 0.357980342 | 2.793449478 |
20 | 0.358485922 | 2.789509818 |
50 | 0.36416968 | 2.745972701 |
100 | 0.366032341 | 2.731999026 |
500 | 0.367511255 | 2.721005103 |
1000 | 0.367695425 | 2.719642216 |
10000 | 0.367861046 | 2.718417755 |
100000 | 0.367877602 | 2.71829542 |
1000000 | 0.367879257 | 2.718283188 |
10000000 | 0.367879423 | 2.718281963 |
グラフにもしてみた。数が大きくなるのにしたがって、ほぼ一定の値で安定している。
逆数の方も同じで、これを見る限りではeに収束するとしても良さそうではあるけれど確実ではないか。
そういえばeの値を求める公式というか定義があったはずと思い出し、検索したら簡単に見つかった。
なんか似たような式だ。1+1/nを通分すると(n+1)/nだから、
となり、サイコロの目の確率の逆数はこうなる。公式がnで書かれていたので、こちらも変数をnにした。
「n乗がなければ同じ値になるんだけどなあ。」
その場合の収束値はもちろん1だけども、それでは意味が無い。
(自然の中のe(2)につづく)