エロとトリック
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20090327/koteiの「『湖底のまつり』----これはひどい - 愛・蔵太のもう少し調べて書きたい日記」に関して。
…これはひどい。
犯人と謎の人物トリックがあるので、無駄にエロい官能部分を我慢しながら読み通したわけですが、官能部分もトリックだったとは(あまりくわしくは語れない)。いやそれは、たしかにびっくりはしますけどね。あまりヒントを出すのは無理なんですが、我孫子武丸『殺戮にいたる病』と並んでバカミスの座にあることは、ぼくの中では確実。大学時代に読んでたら、叩きつけていたと思うよ。叙述系トリックを、それだけで否定するってことはないんですが、ちょっとこれは…女性のかたのご意見を聞きたいところです。
泡坂妻夫の作品をそんなに知っているわけではない、ミステリ低級者としては、『乱れからくり』の人造的幻想性が忘れがたいものになっていたので、なんかマーケット(市場)的にエロ・官能ミステリが当時望まれていたのか、普通のミステリを読んで確認してみたくなった(いわゆる「新本格」で綾辻・有栖川とかが出はじめる前の時代)。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20090327/kotei
感想は人それぞれだとはいうものの“無駄にエロい官能部分”というのはあたらないような。すぐあとに書いてありますが、これもトリックのうちなのですから。いわば必然性のあるエロでしょう。
また、これまた詳しくは語れませんが、現実にそういったこともあったはずなので紀子がわからなかったことがありえないということもないでしょう。それ以外でも、確かに目の前にいるのにそれがわからない「見えない人」的なトリックも秀逸。
小説などに濡れ場があった方が売れ行きが良いというのを何かで読んだことがあります。官能小説まではいかないけども、逆にいうと人目を気にしなくても読める一般小説や時代小説などにエロがあるのを好ましいとする読者も多いのかも。
エロというのをお色気的なものまで範囲を広げると、ライトノベルやマンガにだってお色気は望まれているような気がします。
ミステリだと島田荘司の吉敷刑事のシリーズに僅かながらエロ的なシーンもあったような。奥さんが姿を消したあたりの話とか。
「湖底のまつり」と「乱れからくり」のどちらを選ぶかと言われたら、「乱れからくり」の驚愕のトリックの方ではありますが、「湖底のまつり」もそんなに悪くはないと思います。繰り返しのような部分を無駄と感じるかどうかが好き嫌いの分かれ目かも。幻想的な話の好きな人にはお勧め。もっといえば、合理的な謎解きが余計だと思う人さえいるかもしれません。
そういえば「黒の通信」という短編では、著者自身を思わせる青瀬という作家に対してこんなことを言わせています。
「じゃ、聞き流して下さい。青瀬さんの小説を読んでいつも思うんですが、前半の不思議で神秘的な感興が最後まで続けば、もっと素晴らしい小説になるんじゃないか、とです」
「なるほど。私の場合、最後には不思議は合理的に解決させてしまう」
「そこが勿体ないんです。折角の神秘性が日常的なものに変わって、なにか索漠とした感じになってしまいます」
「探偵小説というのは不可解な謎を合理的な説明で解く、その面白さにあるんだがな」
「でも、奇術家は不思議や神秘を演じても、種明かしはしませんよ」
「なるほど……そうだ」
「青瀬さんの場合、男と女の間にある謎まで解いてしまおうとする」
(集英社文庫「恋路吟行」収録の「黒の通信」より引用)
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「迷蝶の島」も男女の愛憎がメインで、幻想的なシーンが出てくる点では「湖底のまつり」と似ているかも。だから「湖底のまつり」が駄目な人にはあまりお勧めしません。でも「乱れからくり」を思わせるような部分もなきにしもあらず、かな。
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「弓形の月」も「湖底のまつり」と似てますが、ミステリ的な部分からはさらに遠ざかります。
劇団の女優五月は誤配された速達が縁で同じマンションの弓子を知る。弓子はちょっとボーイッシュな娘で、お礼にとJリーグのキップを差し出した。その贈り物もさりながら、五月の目を引いたのはその送達が封も切らずに捨てられたことだった。次の日路上で若い娘とキスしている弓子を目撃。男、女、両性具有 妖しい混沌の世界が展開する幻想ミステリー
- 作者: 泡坂妻夫
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