Log of ROYGB

はてなダイアリーが廃止されるので、引っ越しました。

予防接種の期待値

はじめに

期待値というのは確率の話に登場するのですが、日常的にも使われます。宝くじの当選金はが100円につき50円なので損だというような話は期待値の考え方を使っています。宝くじの場合は、何枚かで1つのユニットになっていて当りの枚数や金額が決まっているので計算できるわけです。
これが、少し前のニュースに登場したような、全部引いても当りのでないクレーンゲームのくじのような場合は計算できません。*1
宝くじなどのはっきり計算できるもの以外でも、おおよその確率でもとめた期待値を使って考えることはできるし、なかなか便利ではあります。

予防接種

予防接種の期待値というのも考えることもできます。病気になる確率と、病気になった場合の損失の金銭換算から計算した期待値と、予防接種の効果と費用の期待値を比べれば損か得かが判断できます。
例えば、100人にひとりの確率でかかる病気の損失が10万円だとすると、期待値はマイナス1000円です。100分の1かける10万を計算した結果です。
予防接種の効果が100%で、接種すれば病気にかからない場合には接種費用がそのまま期待値になります。これが病気の期待値よりも高ければ接種はコスト的に損で、安ければ得になります。
実際はもっと複雑で、病気になる確率やかかる費用も一定ではないだろうし、予防接種の効果も100%ではありません。しかし、期待値というものをつかって損得を決めることが出来るという考え方は同じです。
病気にかかる確率やかかった場合のコストを低く見積もれば、相対的に予防接種のコストは高くなるので接種を受けるインセンティブは失われそうです。

保険

期待値の考え方からすると、宝くじと同じように損であると判断される物に保険があります。保険も多くの人がお金を出して少数の人が手に入れるという点では宝くじと同じです。宝くじを買ったお金はすべて賞金になるわけではないのと同じように、保険料もすべてが保険金にまわるわけではないので期待値は1よりも小さくなります。
それでは保険は無駄なのかというと、そうではない面もあります。保険が支払われるのは宝くじのようにランダムに選ばれるのではなく、何らかの事故や病気、災害などが起こった場合です。何かあった場合の損失が大きい場合は、多少無駄があるとしても保険に入るメリットはあります。例えば自動車保険の場合は、人身事故などで通常ならばとても払えない賠償金を支払うことになった場合を保障します。
確率は小さいけれど、もしそれが起こった場合の損失が何も対策をしていなければ耐え切れないような場合には、期待値的には損でも保険に入るメリットはあるということです。だから、大きな運送会社などの場合は、自動車保険に加入しないこともあります。事故が起こった場合の支払い能力があれば、保険料金と事故の確率などから期待値の計算をして損得によって保険に入るかどうかを決めることができるからです。加入しない場合でも、実質的には自社で保険業務を行っていると考えることもできます。

予防接種の場合も、保険と同じような考え方をすることも出来ます。病気によって死ぬというのを耐え切れない損失として、その確率を下げる為の方法としての予防接種の選択です。生命の価値を非常に高く判断することで、期待値の考え方でも同じような選択が可能になりますが、生命の価値をあまり高く評価すると困ったことも起きそうです。
パスカルの賭け」というのは神を信じるべきかどうかを期待値によって判断する方法ですが、神が存在した場合の利益を過大に評価したために存在確率が低い場合にも信じたほうがよいとなります。同じように、生命の価値を非常に大きいものだと評価した場合に、生命を救う方法はその確率が非常に低いものでも期待値からは選択するべきとなります。これは、あまり効果の無さそうな代替医療を選択する人がいることの説明のひとつになるかもしれません。他にもっと確率のよい選択がある場合はそちらを選べばいいのですが、他になければ「何もしないよりはまし」という考えが働く可能性です。

接種率を上げるには

生命の価値が大きいという認識に対して、行動がそれにともなっているのかというと疑問なこともよくあります。自動車に乗っているときに、シートベルトをしていたほうが事故があった場合の死亡確率を減らすことができますが、法律で着用が義務付けられる以前の着用率は高くありませんでした。その辺から予防接種について考えると、予防接種が病気なりにくくすることで死亡確率を減らすのが確実であったとしても、接種率はそんなに高くならないんではないかと予想されます。かといって、シートベルトのように法律で義務付けるというわけにもいかないでしょう。*2
これを自動車のエアバッグのようにあまり意識しないで増やす方法は無いものかと考えました。エアバッグの普及率が増えたのは、自動車の標準装備になったというのが大きなげんいんでしょう。自動車保険の保険料が安くなるというのもありますが、これはシートベルトの着用でもあるので、それほどの効果はないかも。
予防接種を何かの標準装備のようにする方法としては、健康診断に組み込むというのを思いつきました。採血検査と一緒に行うなどで可能でしょう。接種は強制ではないにしても、メタボリック対策のように接種率によって健康保険の保険料を変えるなどすれば効果が出るかもしれません。



以前に書いた期待値に関係するもの
インフルエンザ
期待値無限大
逆宝くじ
安全第一


参考にしたエントリー*3
http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20090514/1242242625の「反社会カルトとしてのホメオパシー - 地下生活者の手遊び」


(15日追記)
コメント欄で指摘のあった損失余命というのは、化学物質の危険性などを比較する場面で見たことがあります。あとは日常における危険の度合いの比較などでしょうか。
予防接種に関するものは見たこと無いですが、病気に関するものはあるので予防接種で100%防げると仮定すればそのまま使えそうです。でも自分に関する期待値だけで考えると、健康で体力のある人は病気で死ぬ確率も少ないので予防接種するメリットが少ないとかなって社会全体の利益に反したりする場合もありそうで難しいところ。


参考リンク
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/RiskDeath.htm 「リスクと死因 市民のための環境学ガイド」
http://www.yasuienv.net/WHOwhr2003.htm 「WHO世界健康報告 市民のための環境学ガイド」

*1:当りが入っていないのが確実なら期待値は0になるけど、それはくじとは呼べないでしょう。

*2:過去には強制していたことはありますが。

*3:とはいっても予防接種しか関連が無いかも。ここで書かれていた流行の防止という社会のメリットに対する個人のメリットについて考えたのがきっかけ。