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A案成立

臓器移植法の改正案のA案が参院でも成立しました。施行は1年後だそうです。
改正案の成立によって、本人の事前の意思表示が無かった場合にも家族の承認によって臓器提供をすることが出来るようになります。同じ理由から15歳未満のドナーからの臓器提供が可能になるようです。
この辺が少しややこしいのですが、現在の法律にも15歳未満からの臓器提供を禁止する項目はありません。しかし、厚生省保健医療局によって定められたガイドラインによってそうなています。

第1 書面による意思表示ができる年齢等に関する事項

 臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「法」という。)における 臓器提供に係る意思表示の有効性について、年齢等により画一的に判断することは難しいと考えるが、民法上の遺言可能年齢等を参考として、法の運用に当たっては、15歳以上の者の意思表示を有効なものとして取り扱うこと。

http://www.jaam.jp/html/report/report-zoki990517.htm


このガイドラインが修正されない限りは、15歳未満のドナーからの臓器提供は出来ないでしょうが、法律改正にともなってガイドラインも改正されることでしょう。
そこで気になるのは、15歳未満の人による臓器提供を拒否する意思表示があった場合にどうなるかということです。この疑問については「15歳未満で臓器提供拒否の意思表示をしたら有効か?」でも書きましたが、民法上の遺言可能年齢を参考とするのであれば、15歳未満の意思表示は無効であるとなりそうです。臓器提供の意思があっても有効ではないと扱うのであれば、拒否の意思も有効ではないと扱うのが公平な処置でしょう。
しかし、心情的にはそういったことに賛成できないものがあります。現実的にも、15歳未満の拒否の意思でも尊重されるだろうと思います。ほとんどの場合で、本人が拒否の意思を示していたにも関わらず、家族が臓器提供を承認するということは起こりそうにありません。


本人の意思が無かった場合でも、家族の承認があれば臓器提供が可能になった今回の改正案ですが、本人の意思表示が無用になったわけでは無いでしょう。家族の判断としても、本人に提供の意思があったのか無かったのかというのは重要でしょう。法律上事前の意思表示が無かった場合には家族の判断だけで良いと決められていたとしても、心情的には本人の意思の有無によって大きく違うであろうことは想像可能です。
本人の意思ということでいうと、移植を受ける場合にも本人の意思は重要なのかなと思ったり。でも風邪とか予防接種、歯医者なんかは子供が嫌がっても医者に連れて行くのでその延長として許容されるかもしれないけど。



脳死になった場合の臓器の提供の意思表示に使われるドナーカードというものがあります。提供の意思だけでなく、提供しないという意思の表示にも使えるもので、最近では保険証の裏面がそうなっているものもあります。
このドナーカードは無効であるという意見もあります。『「おろかもの」の正義論』という本の中では、チェックを入れる方式がずさんであるとして批判しています。本人以外のものがチェックを入れても識別するのが困難だからという理由です。
同じ形式で財産の遺贈を行う「財産提供カード」があったとしたら法律上は遺言として無効だろうとも書いています。確かに遺言書が有効であるためには、公正証書などの決められた方式によるか、すべてを自書する必要があったはずです。*1


今回の改正案で気になるのは、臓器提供とは関係の無い脳死判定はできるのかということです。現在の法律とガイドラインでは、臓器提供を前提とした場合にしか脳死判定を行うことができないようです。

第5 臓器移植にかかわらない一般の脳死判定に関する事項

 法は、臓器移植の適正な実施に関して必要な事項を定めているものであり、臓器移植にかかわらない一般の脳死判定について定めているものではないこと。このため、治療方針の決定等のために行われる一般の脳死判定については、従来どおりの取扱いで差し支えないこと。

http://www.jaam.jp/html/report/report-zoki990517.htm


今回成立したA案が必ずしも一般的に脳死は人の死だと規定するものでは無いようですが、「脳死は人の死」を臓器移植の場合に限ることを明記した修正A案も参院に提出されていたことを考えると、A案だと臓器移植とは関係ない場合でも脳死は人の死になるんだろうかという疑問が出るのも無理はないような。それに関しては「臓器提供無しの脳死判定」でも書きました。
現在のガイドラインでも、脳死判定を行った場合には結果的に移植を行わないとしても、その脳死が確認されたという結果によって死亡したとなるようです。

第9 臓器摘出に至らなかった場合の脳死判定の取扱いに関する事項

 法の規定に基づき、臓器摘出に係る脳死判定を行い、その後移植に適さない等の理由により臓器が提供されない場合においても、当該脳死が判定された時点(第2回目の検査終了時)をもって「死亡」とすること。

http://www.jaam.jp/html/report/report-zoki990517.htm


法律の改正案は成立しましたが、今後はガイドラインがどう修正されるのかというのが気になるところです。

*1:逆に自書でさえあれば、メモ紙に鉛筆で書いたとしても法的には有効になるみたいなのが、これまた困った問題になることもあるけれど。