Log of ROYGB

はてなダイアリーが廃止されるので、引っ越しました。

ランプとボタン(1)

ボクがその実験に参加することになったのは、友人との会話がきっかけだった。
人の意識について研究している友人の言葉によれば、人が何かをしようと思うのよりも前に、脳が活動しているのがわかるそうだ。つまり、意識によって何かをするのではなく、何かをしようとする無意識の反応の結果として意識が存在するというにわかには信じられないような話だ。


「じゃあさ。ボタンを押す前にランプが点くような装置も作れるのかな?」
ボクは友人に言った。
「ボタンを押す前にランプが点く装置?」
「うん。意識によって行動するのよりも前に脳の活動によって決まっているのなら、それを使って行動の前にランプを点けたりもできるはずだよね。」
友人は、黙って何かを考えているようだった。


「できる、んじゃないかと思う。少なくとも試してみる価値はあるな。」
そして、ボクは実験のアイデアの発案者として最初の実験に呼ばれることになった。アイデアといっても、少し前に呼んだ話に書いてあったのを思い出して言っただけだ。ボタンを押す前にランプが点く装置以外にも、水に入れる前に溶ける物質とか、SFにはそういう物があふれている。


まず最初は、データを取るためにボタンを押すだけの実験を行った。美容院でパーマをかけるときに使うお釜のような物を頭にかぶせて、スイッチを押すときの脳の状態を記録して分析するのだそうだ。


最初の実験が終わると、データを分析した結果を判定プログラムに入力する為にしばらく待たされた。待っている間に飲み物が出てきて、これもパーマをかけている時と同じだとおもっておかしくなった。頼めば雑誌も持ってきてくれたかもしれない。


次の実験でランプが登場する。最初の実験のデータから、ボクがボタンを押す時の脳の状態と同じだとプログラムが判定したらランプが点く仕組みになっている。
実験を開始しても、しばらくは何も起こらなかった。そろそろ押してみるか、と思ったらランプが点いた。手を止めようと思ったが間に合わず、ボタンを押した。続けてボタンを押したが、その直前にすべてランプが点灯した。


なんというか自分の自由意志が無くなったような奇妙な気分になったが、しばらくして機械を出し抜くことに成功。
やり方としては単純で、ボタンの周囲を叩きながら時々ボタンも叩くという方法。この方法でもボタンを押す前にランプが点くことはあったが、ボタンでは無い場所を押す前にランプが点いたり、ランプが点かないのにボタンを押すことにも成功した。


最初の勝負は、ボクの自由意志が勝利したのだった。