Log of ROYGB

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壁の名前

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.htmlにある「Always on the side of the egg - Haaretz - Israel News」に関して。エルサレム賞を受賞した村上春樹のスピーチの内容だと思われます。*1


使われている言葉の意味や前後関係について気になった部分を書いていきます。


まず、"right"と"wrong"について。最初にでてくるのはこれで、小説家にとって"right"か"wrong"かの判断が大切だというように書かれています。

To make judgments about right and wrong is one of the novelist's most important duties, of course.

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html


しかし、次に"right"と"wrong"が登場する場面では、、"right"か"wrong"かはどうでもよいとされています。ここでは"egg"か"wall"かが大切なようです。

Yes, no matter how right the wall may be and how wrong the egg, I will stand with the egg.

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html


卵と壁の比喩は、何度も登場しますがその意味するところは変わっていきます。「卵と壁」が登場する前に、自分の心の中にがあるとあります。これは次に登場する「卵と壁」の壁とは無関係とも考えられますが、あえて登場させたとも考えられます。

I have never gone so far as to write it on a piece of paper and paste it to the wall: Rather, it is carved into the wall of my mind, and it goes something like this:

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html


「卵と壁」は、最初に説明も無く登場して、自分は卵の側に立つと主張します。

"Between a high, solid wall and an egg that breaks against it, I will always stand on the side of the egg."

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html


そして「卵と壁」が何の比喩であるのかが説明されます。"Bombers"、"tanks"、"rockets"、"white phosphorus"が壁で、"unarmed civilians"が卵としています。"Bombers"はhttp://anond.hatelabo.jp/20090218005155では「爆破犯」で*2http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2009/02/post-1345.htmlでは「爆撃機」と訳されていますが、後の3つが兵器なのだから最初の一つも兵器である「爆撃機」なのかなと思います。兵器が「壁」で、兵器に被害を受ける民間人が「卵」であるとするとしっくりします。

Bombers and tanks and rockets and white phosphorus shells are that high, solid wall. The eggs are the unarmed civilians who are crushed and burned and shot by them. This is one meaning of the metaphor.

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html


「卵と壁」の別の意味も登場します。我々全てが「卵」であるというものです。前の「兵器の被害を受ける民間人」の範囲が広がったような感じを受けます。

It carries a deeper meaning. Think of it this way. Each of us is, more or less, an egg.

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html


「壁」の方は「システム」とよくわからないものとされます。この「システム」は、前の具体的な兵器のようにわかりやすくはありません。システムが「何」であるかは最後まで明確には述べられませんが、システムが「何をする」かについてはいくらか述べられています。

And each of us, to a greater or lesser degree, is confronting a high, solid wall. The wall has a name: It is The System.

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html


ところで細かいことをいうと、壁がシステムであるとは書かれていません。壁の名前がシステムであると書かれています。これは通常の意味としては同じなのですが、「鏡の国のアリス」に登場する歌があって、その歌は「柵の扉に鎮座して」なんですが、歌の名は「老いたる老いたるそのお人」とか違っています。*3
今回のスピーチの場合は「鏡の国のアリス」のような言葉遊びとしての意図はないと思うのですが、何の意図も無いともいえないような気がします。
The wall is The System.としないで"The wall has a name: It is The System."と書いた意味が何かあるのではということです。


(19日追記)
「壁と卵」というメタファーについてもう少し。
「卵」が意味しているものは、基本的に一つです。範囲を狭く「武器によって傷つけられる民間人」とするか「すべての人」なのかという違いはありますが、その対象はあくまでも「人」です。
「壁」については少なくとも四つあります。まず「武器」として、もっと具体的には爆撃機、戦車、ロケット弾、白燐弾が名指しされています。そして、壁の名前としての「システム」ですが、これが具体的に何なのかはスピーチでは述べられていません。
残る2つが、メモを張っておく比喩というよりはその物としての壁、そして村上氏の心の中にある壁です。この「心の中の壁」に刻み付けられているのが「卵と壁」のメタファーです。

*1:微妙な点で、実際に話された物と異なっている部分もあるようですが、内容としては同じでしょう。

*2:19日の時点では「爆撃機」に修正されてます。

*3:他に「呼び名」や「こう呼ばれている」というのががあります。