Log of ROYGB

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「グランド・バンクスの幻影」

同じ作者の「楽園の泉」と似ているというのをきいて「グランド・バンクスの幻影」を読んでみました。
「楽園の泉」が軌道エレベータを作ろうとする話であるのに対し、「グランド・バンクスの幻影」はタイタニック号を海底から引き上げようとする話です。巨大プロジェクトを実行するとう点だけならば、ロケットを打ち上げようとする話でもそうだし、似ているものはもっと多いでしょう。ただ「楽園の泉」と「グランド・バンクスの幻影」は、複数の視点を切り替えながら話が進む点なども似ています。
だから明確な主人公というのはいませんが、それでもあえていうならジェースン・ブラッドリーがメインで話が進みます。
メインの筋とは無関係に思えるエピソードが入るので少し散漫な感じも受けますが、実はそうでなく関連しているものもあるようです。マンデルブロ集合というのが出てきて、これは単に作者の趣味のようにも思えます。しかしマンデルブロ集合というのはカオス理論を代表するものの一つで、同じように有名な物としてローレンツアトラクタが連想されます。気象学者のローレンツが、気象シミュレーションで初期値の千分の1の差がまったく違った結果をもたらすことを発見したことがローレンツアトラクタのきっかけでありカオス理論の始まりでもあります。
「グランド・バンクス」で発生する暴風雨は、根拠の無い都合主義などではなくカオス理論をベースにした予測ではないでしょうか。「楽園の泉」でも嵐が重要な役目を果たしますが、こちらの方がわかりやすく説明されていた気がします。たしか気象コントロールが理論的には可能でも事実上不可能であるとかを登場人物が議論していました。


参考リンク
マンデルブロ集合 - Wikipedia
ローレンツ方程式 - Wikipedia


このマンデブルロ集合とカオス、そして気象といった関連のようなものが他にもあるかもしれません。ただ、それが理解できないために単なる思わせぶりや蛇足としてしか感じられないのかも。


ところでマンデブルロ集合に関しては、作中以外にあとがきでも説明がされています。そこで単純さを強調するあまり、足し算と掛け算だけで十分のようなことが書かれていますが、これには賛成できません。というのは、その足し算や掛け算をする「数」が複素数だからです。1個、2個と数えられる自然数から、分数で表せる有理数、そして無理数などを含めた実数でも不足で、虚数も含めた複素数とそれを表現する複素平面が無ければマンデブルロ集合を描くことは出来ません。


正四面体とピラミッド型の問題には衝撃を受けました。あとがきで薦められるまでもなくハサミとボール紙で確かめてみました。それでも不思議です。


最後に、科学的な整合性についてはかなり気を使っている本作品*1で間違いではないかと思われることを一つ見つけました。
それは水の電気分解に関してです。水を電気分解して酸素と水素になるのはその通りですが、海水の場合は違います。塩化ナトリウム水溶液を電気分解した場合には酸素と塩素が発生します。塩素ガスは有毒なので、これは少しまずいのではと思います。
でも作中で塩素ガスが発生していないので、電気分解装置に海水が直接供給されるのではなく、逆浸透膜などによる脱塩装置を通って供給されているのかもしれません。


*1:クラークの作品はほとんどがそうですが。