Log of ROYGB

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メモリスタ

http://www.eetimes.jp/contents/200805/34206_1_20080502150844.cfmの「eetimes.jp 抵抗、コンデンサ、インダクタに次ぐ「第4の受動素子」をHP社が実現(2008-05-02) 〜 EE Times Japan 世界最大のエレクトロニクス情報誌の日本版」に関して。

電子回路理論におけるミッシング・リンク――その存在を指摘されつつも、実現されていなかった回路素子「メモリスタ(memristor)」。抵抗、コンデンサ、インダクタに続く、「第4の受動素子」である。その製造に、米Hewlett Packard社の研究部門であるHP Labsが初めて成功した。

 メモリスタの存在は、1971年に米University of California, Berkeleyの教授であるLeon Chua氏が「IEEE Transactions on Circuit Theory」で発表した論文において指摘されていた。ただし実際に素子として製造されたのは、今回のHP社の成果が世界初である。同社シニア・フェローのR. Stanley Williams氏が率いる研究チームが実現した。Chua氏とWilliams氏によれば、「エレクトロニクスのすべての教科書を、メモリスタの実現が電子回路理論にもたらす新たなパラダイムを取り込むために、改訂する必要があるだろう」という。

http://www.eetimes.jp/contents/200805/34206_1_20080502150844.cfm


「第4の受動素子」というのは少し大げさかなと感じました。ダイオードだって非線形の特性を持つ受動素子です。他にも記事中にあるセンサ類や電圧によって抵抗値の変わるバリスタ、それから電流によって抵抗値の変わるポリスイッチなんかが思いつきます。電球などののフィラメントも電流によって抵抗値が変わります。

メモリとしての機能とヒステリシス現象からFRAM(FeRAM)を連想しました。これはすでに実用化されているメモリで、強誘電体のヒステリシスを利用しています。記事の説明によればメモリスタは電荷の移動によって抵抗値を変化させているようなので、磁化のヒステリシスを使っているFRAMとは同じではありません。電荷によって抵抗を変えるという点ではEPROMの方が似ているかもしれません。*1

参考リンク
wikipedia:FeRAM
http://jp.fujitsu.com/group/labs/techinfo/techguide/list/fram.html FRAM 富士通研究所

 HP社が製造した世界初のメモリスタは、二酸化チタンの薄膜を2層使ったサンドイッチ構造を採る。薄膜の結晶構造を変化させることで、メモリーとして機能させることが可能だとする。素子中の原子の動きを、素子を流れる電子の動きに対応させて、結晶構造を変化させるという。素子を構成する下側の薄膜は、チタン原子と酸素原子が規則的な格子配列で並んでおり、特性の良い絶縁膜として機能する。一方で上側の薄膜は、酸素の空格子点を形成することで導電性を持たせた。空格子点が多ければ多いほど、導電性が高まる。

 サンドイッチ状に重ねた2層の二酸化チタン薄膜の上下にナノワイヤーのクロスバーを配置することで、電荷が材料中を通過できるという。Williams氏によれば、「当社は、二酸化チタン酸素センサーの動作原理を調査することで、メモリスタを実現する方法を見いだした」という。すなわち、酸素の空格子点を材料中で移動させるという手法である。具体的には、「薄膜をサンドイッチ状に重ねた構造の素子に電流を流すことで、空格子点をもともと存在している層から、当初はそれらが存在していない層へと移動させられる。この結果、素子の抵抗値を1000もしくはそれを超えるような比率で変化させることが可能だ。こうしてメモリスタを『オン』に切り替えてから、電流を反転させれば、空格子点がもともと存在していた層に戻るため、メモリスタを『オフ』に切り替えられる」(同氏)。

http://www.eetimes.jp/contents/200805/34206_1_20080502150844.cfm


実用化はこれからですが、抵抗のような2端子の素子というのがネックになるかもしれません。2端子素子だと入力と出力を分離するのが難しいからです。トランジスタのような3端子以上の素子の場合は分離が容易です。かつて注目を浴びたエサキダイオード*2が、現在ではほとんど使われていないなどということも頭に浮かびます。
トランジスタと組み合わせて使うことはおそらく可能で、実用化されるとしたら最初はそうなるのではと思うのですが、そうすると微細化のメリットが生かせなくなりそうです。

*1:もっと原理的にはMOSFETか。

*2:トンネルダイオードとも