Log of ROYGB

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シュレーディンガーの兎

http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20080607/1212844312の「ざっと読んだ - finalventの日記」で紹介されていたブルーバックスの「量子力学の解釈問題」に関して。紹介されていなくてもいずれは読んだだろうとは思う。というのは訳者の和田純夫がやはりブルーバックスで出している「量子力学が語る世界像」があるのだけど、これも本書と同じ多世界解釈という立場で書かれていて興味深く読んだから。もう一冊「場の量子論とは何か」もあるけど、これは難しかった。


多世界解釈」の立場に立ってはいるけれど、正統的なコペンハーゲン解釈や、ガイド波*1についても説明があり参考になりました。ニールス・ボーアが観察されたものが実在するとは言っていても、観測によって状態の収縮が引き起こされるとは言っていないとする主張は中でも興味深く感じました。他には2スリットの実験で、光子や電子ではなく複数の炭素原子から構成されるフラーレンを使っても干渉縞が出来るというのは聞いたことはあったのですが、やはり不思議に感じます。

多世界解釈での説明で、2つ以上の状態が絡み合ったエンタングルメントが干渉性を消失するデコヒーレンスによって状態が決まるというのは理解できなくはないのですが、それがベンローズの主張する客観的収縮とどう違うのかというのが良くわかりませんでした。
たとえ話が多いのには賛否があるでしょうが、もし投票するなら賛成に1票入れます。宝くじに確実に当選する方法はグレッグ・イーガンの「順列都市」を連想させました。眠り姫の問題もなんというかSFみたいに感じました。

多世界解釈に対しても他の説のように批判的に検討されてはいないのが気になりました。デコヒーレンスが起こった場合に、世界は同時に分岐するとすれば超光速で分岐の情報が伝わったということになるのではないかというような疑問が出てくるからです。


翻訳で気になったのが人名に関してです。外国語の名前を日本語にするにはいろんなやり方があるにしても、なるべく他とあわせてもらえないとわかりにくく感じます。209ページの「ディルベルト・ホテル」は「ヒルベルト・ホテル」と合わせる意味もあったのでしょうが、せめて説明にあるマンガの題名の方は「ディルバート」とした方がわかりやすいと思いました。

wikipedia:ディルバート



量子力学の解釈問題―実験が示唆する「多世界」の実在 (ブルーバックス)

量子力学の解釈問題―実験が示唆する「多世界」の実在 (ブルーバックス)

*1:パイロット波