Log of ROYGB

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ハイウェイ惑星ネット(デュマレスト・サーガ風)

http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20061109/chisikiにある『愛・蔵太の少し調べて書く日記 - 本や映画の批評は知識のない「自分語り」レベルじゃ単なる「感想」だよ』に関して。

ええと、あんまりいい例が思い浮かばないんだけど、SFマガジンという、今では日本でひとつしかないSF*1雑誌がありまして、1960年代は福島正実という人が編集長でした。小松左京筒井康隆星新一といった「日本SF黄金時代」の黄金作品を書かせていた雑誌が「SFマガジン」(正確にはS・Fマガジンなんですけどね)です。まぁ、星・筒井を最初に発見・後援したのは江戸川乱歩だという話もありますが、それは置いておいて、その雑誌の中に「石原藤夫」というエンジニア系の作家(早稲田大学理工学部卒業の工学博士です)がいたわけです。デビュー作は、「ハイウェイ惑星」という、惑星全体に巨大ハイウェイが張り巡らされた星で、という説明は、昔のSFファンには不要だとは思いますが、この人がSFマガジンに書いて投稿すると、なぜか2か月経つと編集長の福島さんから「そろそろ何か新しい作品なんかはできましたか」と聞かれる。で、それにあわせて石原藤夫さんも「惑星」シリーズをどんどん書く(たまには違うものも書く)、ということで、初期の傑作短編群が生まれたわけですが*2、これは別に福島さんが石原さんに期待していたとか、SFマガジンの未来を賭けていた、ということはまったくなくて、単に「掲載してみたら読者アンケートがよかったので、俺(福島)にはわからない傾向の作品だが、とりあえず次も載せてみようか」と思っただけのことでしょうね。

いやもちろん、確証・確信はありませんよ。当時の福島さんがイチ押しだったのが小松左京さんだった、というのは明らかにわかりますし、そういうタイプの作家が出て来るのをサポートしたかったんじゃないか、というのも感じます。光瀬龍眉村卓平井和正などなど、当時刊行された「日本SFシリーズ」という新書判の中で本を出した人たちが、福島正実さんのお気に入りだったのでした。その傾向と石原藤夫さんを比べると、何かが違うんですよ。

これは、文系の教養しか今まで育んで来なかった人間の限界で(ぼくもそういうタイプなのでわかります)、「エンジニア(工学者)的発想」を根に持つ創作物については、そのようなものを面白がれる人間が本当にある程度以上の数存在しているのか、という発想がありません。

だから、福島さんは石原藤夫さんのアンケートのよさに首をかしげるしかなかったわけですが*3、「まぁ、人気があるなら他の作品を頼まないとなぁ」と、プロの編集者として行動したんでしょうね。

日本のエンジニア(工学)・理学系SF作家というのは、本当に恵まれていません。何しろ、理科系出身の編集者が、小説畑にほとんどいないわけで。アメリカの場合は、アスタウンディグ誌という一番売れていた雑誌がMIT出身の編集者、ジョン・W・キャンベルだったりしたんですが、日本は科学系の書籍・雑誌を作る人間を除くと、本当に理工系出身者はいないです。


アンケートに答えた読者には良さがわかったわけで、“そのようなものを面白がれる人間が本当にある程度以上の数存在しているのか、という発想がありません。”には少し疑問があります。「ハイウェイ惑星」を面白いと思った読者が進化論に詳しいかというとそんなこともないと思うからです。
あとhttp://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/010402.shtmlにある徳間デュアル文庫で復刊されたときの著者インタビューによれば、福島編集長はこういったハードSFが超お好きでしたとのことです。

「宇宙船オロモルフ号の冒険」も複素関数を知らないと読めないかというとそうでもありません。スペースオペラを読むのに、銅を燃料とするサイクロトロンの原理を知らなくてもよかったりするのと同じかと思います。でも、あとになって複素関数を学んだときに「ああ、これか。」と何かうれしく思ったのも事実です。

同じ作者の「助かった三人」などは、確かに面白いと感じる人を選ぶかもしれません。建設中のビルの現場から転落した物理学者、電気工学者、数学者の三人がそれぞれの専門を生かしてなんとか助かったという話です。数学者がオチになっています。

また「解けない方程式」なども、方程式物に対して真っ向から挑んだ工学的作品と言えるかもしれません。誰かを犠牲にするのではなく、何をすれば全員が生き残れるか。