「集合とはなにか」
ブルーバックスの「集合とはなにか」を読みました。<はじめて学ぶ人のために>という副題のわりには難しいこともかかれています。それでも数式でわからなくても、何となくでもわかるように書かれているのがだいぶ助かりました。
連続体仮説に関するコーエンの仕事についても書かれていて、これはおそらく強制法のことなんだろうと思うのですが、他で読むのとはずいぶんと違った形で説明されています。強制法という言葉も出てこないくらいです。
他にZFCという言葉も使われていなく、ZFが選択公理も含んだものとして書かれています。
正則性の公理についても、この本を読んでやっとわかった気がしました。
正則性の公理:任意の集合αから出発して,αの元a1をとり,次にa1の元a2を取り,次にa2の元a3を取り……と繰り返してゆけば必ず有限回のうちに空集合に到着してつきてしまう。
ブルーバックス「集合とはなにか」118ページより引用。
この説明は、現在のものとはずいぶんと違います。それが同じなのだということもあとに書かれています。この古い形の正則性の公理の説明の方が直感的な理解しやすいと思いました。この公理によって、どの自然数も有限の値を持つということが説明できます。自然数全体の集合は、無限の元を持つ無限集合ですが、無限集合の場合も正則性の公理は成り立ちます。そして、自然数全体の集合に含まれるどの自然数を取り出しても、有限の操作で空集合に到達してしまう。これは、どの自然数も有限であるということです。空集合からはじめて、空集合の集合、そのまた集合というように正則性の公理の逆の操作によって新しい自然数をつくりだしていくことの、逆の操作を行っているわけです。
他に、いくつか印象的な部分を引用します。
前に選択公理によって存在が保証されるがその定義が書き下ろせないものがあるといいましたが,上の整列可能定理でαをP(ω)としたときのf がその一つの例になっていて,この性質をみたすf を実際に一意的に定義することはできません。私が大学生のときに数学科の学生の一人が友人の所へ行っては実数を全部,実際に整列してみせてくれと質問してあるいていましたが,これがZF集合論ではできないことが判明しています。
ブルーバックス「集合とはなにか」117ページより引用。強調は引用者。
少し前に「実数を一列に並べる」に書いたこの疑問が頭にうかびました。
話をウィキペディアからの引用にもどすと、任意の集合が整列集合となるように順序を定めることができるというのが正しいとすると、実数の集合も順序を定めることができるはずです。そうすると、順番に並べた実数と自然数を一対一対応させることも出来たりするのでしょうか、有理数と自然数を一対一対応させることが出来るように。
http://d.hatena.ne.jp/ROYGB/20090507#p2
しかし、何というか整列可能であることは証明されていて明らかであるにもかかわらず、実際に整列させる方法を説明することができない、しかもできないことも判明しているというのは、これまたずいぶんと不思議な感じです。
整列させるということの意味も、通常のというか有限の範囲での場合とは違った意味なのかもしれません。
そういったことを考えさせる部分を、もうひとつ引用。
初学者のために注意すれば,順序数のベキ乗αβは濃度のベキ乗とはまったく異なる概念です。ωωは可付番順序数のなかでは,きわめて小さいものですがは連続体<実数全体>の濃度です。
ブルーバックス「集合とはなにか」229ページより引用。
注意された初学者としてはいったいどう違うのかというのに首をひねるばかりですが、こういった間違えやすい点について書かれているのが<はじめて学ぶ人のために>ということなんだろうとも思いました。
新装版 集合とはなにか―はじめて学ぶ人のために (ブルーバックス)
- 作者: 竹内外史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/05/18
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