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負の圧力

圧力の値は、ゼロか正の値をとり、マイナスになることはありません。負圧という用語も使われはしますが、これは圧力の差が負になるというだけで、真空をゼロとした規準の圧力が負になるのとは違います。
でも、圧力の差ではない真の負の圧力というのは本当に無いのでしょうか。


まず、圧力とはなんだろうかと考えてみます。圧力は、2つの物体の接触面での単位面積当たりの力*1で現されます。この接触面での力は、物体を構成する分子がぶつかることによって生じます。
ミクロの分子が衝突することによって伝わる運動量の合計が、マクロで圧力として観察あされます。これは温度と似ています。温度の場合は、ミクロの分子の運動エネルギーの平均が、マクロでの温度になるわけです。
温度とは何かということについては、http://homepage3.nifty.com/iromono/PhysTips/maxtemp.htmlにある「物理Tips温度とは何ぞや?」が参考になります。

・高いところから低いところへと熱が移動する。
・同じ温度になったらそれ以上移動しない。

http://homepage3.nifty.com/iromono/PhysTips/maxtemp.html


圧力もこれと同様に説明すると、

  1. 高いところから低いところへ力がかかる。
  2. 同じ圧力になったら、それ以上力はかからない。

という感じでしょうか。


温度と圧力というのは、相互に関連もしていて、温度が上がると圧力が上がったり、圧力を変えることによって温度を変えることもできます。実際にエアコンや冷蔵庫などに使われているヒートポンプは、圧力をコントロールして温度を変えています。


温度の場合は、単位によってはマイナスの温度も存在しますが、これは大気圧を基準にしてマイナスの圧力が存在するのと似たようなものです。絶対温度という単位では、負の温度は存在しません。温度の場合は絶対零度よりも低い温度は存在しないし、圧力の場合は真空よりも低い圧力は存在しません。


ただし、考え方によっては負の絶対温度が存在する場合もあるようです。

マイナスの絶対温度
エネルギーの低い準位にたくさんの粒子があり、高い準位にはすこししかないような体系は温度が低い。熱を注ぎ込めば粒子は上の準位にどんどん昇っていき、温度はあがる。そうして下の準位も上の準位も(もし準位がたくさんあればどの準位も)粒子の数が同じになったとき、温度は無限大である。もし準位が限りなく上の方まであれば、こんな状態はつくりだすことができない(この状態にするには、無限に沢山の熱量を注ぎ込まなければならないから)。
ところが準位のかずが有限で(たとえば簡単なスピン系のように二つしかないとして)、下の準位より上の準位の方にたくさんの粒子があったらどうなるか? その状態は絶対温度がマイナスだと言わざるをえない。


ブルーバックス 「マックスウェルの悪魔」より引用。)

引用部のもう少しあとには熱力学に定義されたエントロピーを使った負の温度の説明もあります。

英語版のウィキペディアにもそれらしき説明があるみたいです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Negative_temperature


温度に絶対零度という限界をこえた負の温度というものがあるのなら、圧力にも真空という限界を超えた負の圧力があってもよいかもしれません。


カシミール効果という、真空中で狭い間隔にある2枚の金属板を引き付ける力がはたらく現象がありますが、これは負の圧力と考えることもできないわけではなさそうです。金属板にはさまれた空間は、通常の真空よりも低いエネルギー状態になるのですが、これを圧力が低いと考えるわけです。


もうひとつは、負の質量という架空の存在を仮定した場合に生じる現象として。
負の質量が存在した場合の不思議な現象については過去にも何度か書いたことがありますが、圧力についても不思議なことがおこります。それが負の圧力です。
圧力というのが、ミクロで見れば分子が衝突したことによる反動だというのは既に説明しましたが、負の質量の分子が衝突した場合には、通常と逆の方向に力がかかります。これは、ニュートン運動方程式に負の質量を代入することで求まります。
通常と逆方向に力がかかるというミクロの現象を、マクロでみると負の圧力になります。


でも、負の圧力が生じるとうことが具体的にどういう現象になるのかを考えるとなんとも不思議になります。たとえば風船を負の質量の空気で膨らませることはできないということです。風船どころか、ビニール袋に負の質量の空気を吹き込むと、負の圧力でビニール袋はつぶれてしまいます。そうすると、負の質量の空気は圧縮されるので分子の運動はますます激しくなり*2、さらに圧力が負の方向に高まることでますます圧縮されることになりそう。
などと考えていくと、負の圧力が存在すると困ったことになりそうです。しかしまあ、その前提である負の質量が存在するのかどうか。質量も、現在のところゼロか正の値をとり、マイナスになることは無いとされているからです。


参考
wikipedia:エキゾチック物質


以前に書いたもの
負の質量
負の質量と電磁気的な力
負の質量と電磁気的な力2

*1:正確には面の垂直方向の力。

*2:負の質量の分子同士がぶつかった場合は、マイナス×マイナスで通常の空気分子と同じ運動になります。