無限と偶数
トムスンのランプ
トムスンのランプという思考実験があります。ウィキペディアの説明から引用します。
小さいスイッチのついたランプがある。スイッチの横には男が一人座っている。
- 男は時刻0で、ランプのスイッチをONにして明かりをつける。
- その1秒後、スイッチをOFFにして明かりを消す。
- その1/2秒後、スイッチをONにして明かりをつける。
- その1/4秒後、スイッチOFFにして明かりを消す。
男はこうしてスイッチを切り替える時間を毎回以前の半分の長さにしていく。つまり次は 1/8秒後にONで明かりをつけ、その 1/16秒後にOFFで明かりを消す、以下続く・・・・
さて、最初にスイッチを入れてから2秒たったとき、このランプはついているか、それとも消えているか?
トムソンのランプ - Wikipedia
これはアキレスと亀と似ていますが、アキレスが亀に追いつくまでの時間を計算するようにランプが点いているか消えているかを計算で求めることはできません。
トムソンのランプは、無限大というのが偶数なのか奇数なのかという疑問とも関連しています。トムソンのランプでスイッチを入れたり切ったりする回数が奇数ならばランプは点いているし、偶数ならば消えているからです。
トムソンのランプを変形したものを考えてみました。
- 時刻0で、ランプのスイッチをONにして明かりをつけ、すぐにスイッチをOFFにする。
- その1秒後、スイッチをONにして明かりをつけ、すぐにスイッチをOFFにする。
- その1/2秒後、スイッチをONにして明かりをつけ、すぐにスイッチをOFFにする。
- その1/4秒後、スイッチをONにして明かりをつけ、すぐにスイッチをOFFにする。
以下同様に続ける…
トムソンのランプでは各ステップでスイッチのONかOFFのどちらかを行なっていましたが、この変形ではONとOFFの両方を行なっています。この場合には各ステップが終了したときにはランプは消えています。
では、最初にスイッチをONにしてから2秒が経過したときにランプは点いているでしょうか、消えているでしょうか。
どのステップが終った段階でもランプは消えているのだから2秒後にも当然ながらランプは消えていると考えるのが妥当ではないかと思いますが、本当にそうでしょうか。2を無限に足した数は偶数だといえるのでしょうか。
数列の極限
数列を使って考えてみます。
Sn=1+1+1+1+1+…
これがトムスンのランプを表したもの。合計値が奇数ならばランプが点いていて、偶数ならばランプが消えている場合に対応します。
Sm=2+2+2+2+2+…
これが変形したトムスンのランプで、合計値が偶数ならばランプは消えています。
2を足しているのだから合計が偶数になるのはあたりまえのような気がします。
任意の個数の2を足した場合には必ず偶数になることは証明できるし、n個の2を足した場合に偶数であればn+1個の2を足した場合にも偶数になります。
だからnをどこまでも大きくしていっても偶数になるように思えます。
この式を計算した結果は偶数でいいんでしょうか。
全ての素数の積
「全ての素数の積が偶数なのが納得がいかない人たち - Togetterまとめ」*1では全ての素数の積が偶数なのには納得できないという考えが出てきます。素数というのは無限に存在するので、全てをかけることができたとすると無限に発散します。それがはたして偶数という性質を持つのかどうかという疑問はもっともだし、数学的な正当性もあるような気がします。
一方で、トムスンのランプの変形で考えたように最初に2があるのだからそれに何を掛けていっても偶数であるという性質は変わらないのではないかとも思います。
Sn=2×3×4×5×7×…
という数列を任意の項数まで計算した結果は偶数であるし、n番目までの計算結果が偶数ならばn+1番目までの計算結果も偶数になります。だからnをどこまでも大きくしていっても計算結果は偶数です。
アキレスと亀とハチ
アキレスと亀の変形としてハチを追加してみます。
1分間にアキレスは100メートル、亀は50メートル、ハチは200メートル進むことができます。
アキレスとハチは同じ位置から、亀は100メートル先からスタートします。
アキレスが亀に追いつくまでが競争ですが、ハチはアキレスと亀の間を行ったりきたりします。スタートして亀に追いついたら向きを変えてアキレスの方に進み、アキレスと出会ったらまた向きを変えて亀に向かって進みます。
この場合に、
- アキレスが亀に追いつくまでの時間。
- アキレスが亀に追いつくまでにハチが飛んだ距離の合計。
がどうなるかというと。
アキレスが亀に追いつくまでの時間は2分です。
ハチが飛んだ距離も無限数列の和として求めることも出来ますが少し複雑になります。しかしアキレスが亀に追いつくまでの時間をずっと飛んでいたと考えると分速200メートルで2分なので400メートルというのが簡単にもとまります。
では、アキレスが亀に追いついたときにハチの向きはどうなっているでしょうか。亀の方を向いているか、アキレスの方を向いているか。
これもトムソンのランプと同様に答の出ない問題です。ハチの向きがわからないということは偶数か奇数かがわからないことと同じです。しかしハチの飛んだ距離はわかります。数列の極限値はわかるということです。
トムソンのランプの変形の場合には極限値はわからないけれど偶数だというのはわかるので、ハチの場合とは逆になっています。