Log of ROYGB

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ヨンケン入門

はじめに

本稿は、ヨンケンについて書いたものです。おそらく、ほとんどの人はヨンケンというものについて聞いたことも無いことでしょう。ジャンケンはご存知だと思います。説明するまでも無いでしょうが、手をグー、チョキ、パーの形にして勝負を競うものです。よんけんもこれと似ています。歴史的にはヨンケンからジャンケンが派生したと考えられますが、現在での知名度ではヨンケンがジャンケンに似ているという説明もいたしかたのないことでしょう。
この稿では、ヨンケンの単純ルールだけではなく、その特徴や起源についても最新の学説をふまえて説明したいと思います。

ヨンケンの手

ヨンケンの手はジャンケンと同じグー、チョキ、パーの三つに加えて、ヨッケと呼ばれるものが加わります。4種類の型によって競うことから四拳でヨンケン。ヨッケという呼び方もヨンケンが変化した物だという説が少し前までの主流でした。この説ではヨンケンより手が一つ少ない3種類の手を使うジャンケンが、三拳のサンケンから変化したということもうまく説明できます。それ以外の新しい説に関しても、後で取り上げてみたいと思います。
4種類の呼び方の規則性を見つけるのには、まずグー、チョキ、パー、ヨッケの最初の文字に着目します。それぞれ「グ」「チ」「パ」「ヨ」となっています。「グ」は五十音のカ行、「チ」はタ行、「パ」はハ行の文字です。カ行からサ行を飛ばしてタ行、そしてナ行を飛ばしてハ行というような規則性があります。ハ行からマ行を飛ばしてヤ行の「ヨ」もまた、この規則を満たしています。
これだけならば単なる偶然とも考えられます。しかし段についても調べると、ここにも規則性が見られるのです。「グ」はカキクだから三段目、「チ」は二段目、「パ」は一段目と段数がひとつづつ減少していきます。そして「パ」の1段目の次はどうなるかというと、「ヨ」の五段目となっています。三、二、一から五になるのは、一段目と5段目がつながっていると考えれば説明がつきます。
グーとパーの類似性と、チョキとヨッケの類似性についても目を向けてみます。グーとパーはどちらも一音を長音で伸ばしているという点が共通しています。チョキ、ヨッケでは拗音、撥音という違いがあるものの、どちらも小さい文字を真ん中に含んだ3文字となっています。拗音と撥音の違いに関しても、グーが濁音でパーが半濁音であるのと同様に、あえて微妙な違いを出すようにしたとも考えられます。
これらの規則性について、すべて偶然だとするにはかなり無理があります。グー、チョキ、パー、ヨッケの名称には、かなり深く考えられた類似や対称の規則性を見てとることができます。グーとパー、チョキとヨッケが組になっていることは名称以外にも多くありますが、これは後の項で説明します。

ヨンケンの勝敗

ヨンケンもジャンケンと同様に勝ち負けを競う物だというのはすでに説明しましたが、その詳細について説明します。グー、チョキ、パー、ヨッケの4つの手の勝ち負けは以下のようになっています。

1.グーはチョキに勝つ
2.チョキはパーに勝つ
3.パーはヨッケに勝つ
4.ヨッケはグーに勝つ

ジャンケンのルールから説明すればパーとグーの間にヨッケが入った形になります。ただ何度も書きますが歴史的にはこの逆で、ヨンケンからヨッケを除いた物がジャンケンになったわけです。
ここで、直接の勝敗が決められていないグーとパー、そしてチョキとヨッケの勝敗についてはどうなのかと疑問を持たれる方もおられるでしょう。これはアイコとなって勝敗はつきません。ここでもグーとパー、チョキとヨッケが組になっているわけです。
少し前までは、ヨンケンにおいてもジャンケン同様に三すくみになっていると考えられていた時期がありました。つまりヨンケンの4つの手から3つを取り出した場合に、三すくみの関係になっているというものです。しかし、少し考えるとこれではうまくいかないことがわかります。グー、チョキ、パーの場合に左の物が右のものに勝つとするとチョキ、パー、ヨッケではよくてもパー、ヨッケ、グーの組み合わせで三すくみにすると、グーがパーに勝つことになってしまいます。それでも組み合わせによって手の勝ち負けが変わるところにヨンケンの難しさがあり、それがまた廃れてしまった理由とする説もありました。しかし、これも少し少し考えればわかりますがグーとパーのどちらが勝つかを決めるのにチョキかヨッケが必要だとしても、チョキやヨッケが無い場合には勝負が決まらないし、あった場合も三すくみになるので結局勝負はつかないわけです。そういったことから、三すくみがヨンケンに含まれているという説は現在ほとんど省みられることがありません。
ヨンケンの勝敗について詳しく説明していきます。二名で勝負を行った場合は、勝ち負けが決まる4つのパターン以外、同じ手であるかグーとヨッケのように勝ち負けの無い手の組み合わせの場合にはアイコになります。これだけではジャンケンとあまり変わらず、アイコが増えただけのように感じられるでしょう。しかし、三名以上の勝負に関しては、ヨンケンとジャンケンでずいぶん違いがあります。
1もしくは2種類の手しか出ない場合は、二名の場合と同じなので説明を省略します。そして4種類の手が全部出た場合も、アイコとなることは自明だと思います。残るは3種類の手が出た場合です。
例えばグー、チョキ、パーの3種類が出た場合。グーはチョキに勝ち、チョキはグーに負けパーに勝つ、そしてパーはチョキに負けることが勝敗のルールから導き出されます。そしてグーが勝ちになりますが、それだけでなくチョキが2番目に勝つということも判明します。つまり、ヨンケンの勝負では単に勝ち負けを決めるだけでなく順位もつくのです。多人数でジャンケンをした場合に、何度もアイコになったり、順位を決めるためにさらに何度も勝負をする必要があることが多いのですが、ヨンケンの場合にはアイコになる確率が低く、順位も決まるというメリットがあります。

手の型について

実際にヨンケンの勝負を行う場合にはそれぞれの手の型を知る必要があります。グー、チョキ、パーについてはジャンケンと同じです。しつこいようですが、歴史的にはジャンケンの手の型がヨンケンと同じということです。
問題のヨッケの型ですがこれには有力な説が2つあり、現在はどちらとも決していないので両説を順に説明します。まずグーとパーの形の対称性に注目します。グーでは5本の指をすべて折り曲げていて、パーではこれと逆にすべての指を広げています。グーとバーという呼び方の類似性だけでなく、手の形の対称性もあるわけです。このことから、チョキとヨッケの組でも指の折り曲げが対称になっているのではというのまでは両説に共通した考えです。
第一の説ではチョキで人差し指と中指を伸ばしているのに対し、単純に規則を適用するとヨッケでは親指、薬指、小指を伸ばすとなりますが、実際にやってみるとわかるようにこれは難しい形です。勝負の際には瞬時に手の型を決定し変化させなければいけません。そのため難しい手の形は不適当だと考えられるために、親指と小指のみを伸ばした形がヨッケの型であるとしています。手の形から「こぶた説」などと呼ばれています。
第二の説は、規則の適用は厳密であるとするものです。しかし、難しい手の型では勝負に差し支える為に可能性は低いということから、「チョキ」の形を見直すという斬新なアイデアによるものです。普及率は低いのですがジャンケンのチョキの型として、親指と人差し指を伸ばした形があります。この形の指を反転させて、中指、薬指、小指を伸ばした状態がヨッケの型であるとしています。そして当初の説は、親指と人差し指は普通に曲げているとしていましたが、今では親指と人差し指を輪のような形にしていたのではないかというように変化しています。そのため「OK説」のように呼ばれることが多いようです。この変化は、古い絵画や仏像などの手にこの説のヨッケのような形をしている物があるということからのようです。また、このヨッケの型からカタカナのヨという文字がつくられたという説もありますが、これは今のところ思いつきの域を出ません。

四拳から四卦へ

ヨンケンのそれぞれの手が何かを表しているのではないかという説は以前からありました。ジャンケンの場合はグーが石、チョキがハサミでパーが紙のように言われていました。以前の説は、これらをそのままにしてヨッケを何かに当てはめようとしたところに無理がありました。
最新の説では、五行説からきているのではないかというのが有力です。五行説というのは簡単にいうと木火土金水の5つが万物を形作っているというものです。そして注目すべきはそれぞれの関係です。

木から火を、火から土を、土から金を、金から水を、水から木を生ずるを相生(ソウシヨウ)という。また、木は土に、土は水に、水は火に、火は金に、金は木に剋(カ)つを相剋(ソウコク)という。

広辞苑第四版より引用)

木火土金水の相剋の関係が、ヨンケンと似てると感じられないでしょうか。ヨンケンの場合は4すくみですが、五行説の場合は五すくみになっています。おそらく木火土金水から土を除いた木火金水の4つが、ヨンケンの手に相当していると考えられます。風水などでも土を中央に置き、4つの方角に木火金水を対応させています。ちなみに木が東、火が南、金が西で水が北となるので、木火金水が東南西北の順に対応しています。他には季節に当てはめ、木火金水を春夏秋冬に対応させ、土を土用とするのも五行説によるものです。
このように五行説では1と4に分けることが数多くあり、ヨンケンもそのひとつだと考えられます。ただヨンケンのそれぞれの手が、木火金水のどれに対応しているのかということについては、以後の研究が待たれるところです。
以後の研究といえば、ヨンケンの名称が四卦からきているのではないかという新しい説もあるようです。占いなどで八卦というのが使われ、相撲などで「はっけよい」というのは「八卦良い」という意味からきています。四卦というのは八卦を単純にしたもの、もしくはより基本的なものではないと考えられているようです。この説ではヨンケンが単なる勝ち負けを決める方法ではなく、吉凶を占う儀式から始まったのではなかったのかとしているようです。
こういったまったく新しい観点からの説が出てくるということは、ヨンケンの研究が広がってきているということで大変喜ばしいことです。

おわりに

ヨンケンについては、新しい観点からの研究も進んでいますが、残念ながら一般への知名度はまだまだのようです。インターネットで検索した場合においても、まったくと言っていいほどヨンケンに関するものを見つけることができません。そこで、ヨンケンを知らない人に対しての啓蒙の目的で、この「ヨンケン入門」を書いた次第であります。


参考文献
ジャンケン入門 (角川文庫)
邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)