Log of ROYGB

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逮捕不逮捕

日米地位協定における、犯罪容疑者の扱いに関して。つまり在日アメリカ兵が犯罪を犯した場合に、原則的に逮捕できないという問題です。逮捕できないという点に注目して、類似するものと比較してみます。

普通だったら、警察が逮捕状をとればいつでも逮捕できますが、今回は容疑者がアメリカ兵だったため、すぐには逮捕できませんでした。

 これは、「日米地位協定」という日本とアメリカの約束にもとづいているためです。日本にいるアメリカ兵については、もし犯罪を起こした場合、現行犯なら日本の警察が逮捕できますが、そうでない場合は、日本の警察は原則として逮捕できないことになっているのです。警察が調べ、さらに検察庁が調べた結果、裁判にかけることが決まったら、つまり容疑者が被告になったら、アメリカ兵は日本に引き渡されますが、それまでは日本側に引き渡されないという決まりがあります。

http://www.nhk.or.jp/kdns/hatena/01/0707.html


日本で外国人が犯罪を犯した場合に日本を離れてしまうと逮捕できないことがあります。その国と日本で犯罪人引渡し条約を結んでいれば、容疑者の引渡しを受けることができますが日本はほとんどの国と条約を結んでいません。それでも外交ルートと通じて引渡しを要求することはできます。また、引渡しが行われない場合でも相手の国に対して捜査や裁判を要求する代理処罰などと呼ばれる方法もあります。

参考リンク
犯罪人引渡し条約 - Wikipedia
代理処罰 - Wikipedia

アメリカ兵が犯罪を犯した場合にも、アメリカに帰国してしまえば地位協定が無かったとしてもこれと同じような状況になります。そしてアメリカ軍の施設は日本にあってもアメリカとして扱われるので、そこにいれば帰国したのと同じことです。だから地位協定が無くても、アメリカ兵を逮捕するのは難しいかもしれません。
しかし、アメリカ軍基地にいることで逮捕されない場合は基地を一歩でも出れば逮捕されるし、アメリカは日本と犯罪人引渡し条約を結んでいる数少ない国の一つなので引渡しを要求することも出来ます。


国会議員も普通の人よりも逮捕されにくくなっています。国会開催期間中は現行犯でないと逮捕できません。この点ではアメリカ兵の場合と似ています。これは“官憲による不当な逮捕、勾留によって議員活動が制限されるのを防止するためである”とウィキペディアでは説明しています。

参考リンク
不逮捕特権 - Wikipedia

議員活動も大切ですが、アメリカ軍の活動も大切ではないでしょうか。国会議員を微罪で逮捕して国会での表決をさせないようにするのと同様に、アメリカ兵を微罪で逮捕して何らかの重要な軍事行動に参加させないようにすることも防止できるようにしておいた方がいいのではという考え方もできます。まあ現実的にはあまりあり得そうもありませんが、国会議員の場合も現在ではあり得そうではないでしょう。ところで国会議員でなくても大臣などになることは出来ますが、その場合には不逮捕特権は無いのだろうかなんてことも考えました。
しかしこの、軍事活動が重要だから不逮捕特権が必要だという考えには難点もあります。それは日本でアメリカ軍以外に軍事活動を行う自衛隊員には不逮捕特権が無いからです。いざというときの軍事活動を円滑に行う為だとしたら自衛隊員もアメリカ兵と同じように扱ってもよさそうな物ですが、実際にはそうでないので成り立ちません。



日米地位協定については、日本側から問題視する意見がでるだけでなくアメリカ側からも改善を求める声があるようです。前に「はい・いいえ・ありがとう」で取り上げたhttp://mytown.asahi.com/okinawa/news.php?k_id=48000159999990529の「asahi.com地位協定、司法摩擦の様相-マイタウン沖縄」から引用します。

裁判で焦点となっている「供述の任意性」は、まさに米側が求める「取り調べの透明化」に直結する。沖縄弁護士会新垣勉会長は「今の地位協定は、米兵に特権を認める不平等な内容だ。しかし、米側が求める弁護人の立ち会いなども容疑者の人権を守るためには必要だ」と話す。

http://mytown.asahi.com/okinawa/news.php?k_id=48000159999990529


参考リンク
http://www008.upp.so-net.ne.jp/aiz/iraqof_sp-1.html C・ジョンソン、帝国の治外法権を語る


(24日追記)
外国における日本人の犯罪に関係する興味深いニュースがあったので追加します。

【ロサンゼルス=飯田達人】米国ロサンゼルス市警は23日、27年前のロス疑惑「一美(かずみ)さん銃撃事件」で殺人罪などに問われ、最高裁で無罪が確定した元輸入雑貨会社社長、三浦和義容疑者(60)を22日午後、渡航先の米自治サイパン島で一美さん殺害の容疑で逮捕したと発表した。

 ロス市警の要請を受けたサイパン島の司法当局が空港で身柄を拘束した。三浦元社長は同島南部ススペの警察署に拘置され、近くロサンゼルスに移送される。

 ロス市警の発表文によると、三浦元社長が日本の自宅からサイパンに向かったとの情報を得て、サイパン、グアム両捜査当局と協力して逮捕したとしている。

 調べによると、三浦元社長は1981年11月18日、ロサンゼルス市中心部で、共犯者と共に一美さんを銃撃した疑い。一美さんは日本に搬送されたが、意識が戻らないまま翌年11月に死亡した。

 米国では原則として殺人罪に時効はなく、また、日本で無罪になった事件でも訴追することができるが、日本で無罪が確定した三浦元社長の逮捕にこの時期に踏み切った詳細な理由は不明。ロス市警は発表文で「捜査の網をかいくぐってきた殺人容疑者が、ようやく捕まった」としているが、今後、起訴されるかどうかの見通しを含め、報道機関の問い合わせには応じていない。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080223-OYT1T00584.htm

 ロス銃撃事件で日本で無罪が確定した三浦和義元被告(60)が休暇中のサイパンで逮捕された。日本の憲法は、一度無罪とされた行為について再び刑事責任を問うことはない「一事不再理」の原則を掲げている。日本人が外国で事件を起こし、その国の法律で裁かれる場合は、この原則は適用されないが、実際に立件されることは極めてまれだ。

(略)

米国の刑事司法に詳しい藤本哲也・中央大教授(刑事法)によると、今回のケースは、犯罪捜査について米国が「属地主義」、日本が「属人主義」を取っているために起きた。

 日本国内で米国人が犯罪を起こした場合、米国の捜査当局は原則的に立件しないが、日本の捜査当局は日本人が海外で起こした犯罪も捜査する。結果的に、日本人による米国内での犯罪は、日米両国で逮捕・起訴される可能性が生じる。藤本教授は「三浦元被告が日本で有罪だったとしても、米国でさらに起訴されることも理論的には可能。本来は国際的なルールを作るのが望ましい」と指摘する。

 殺人罪は、日本では25年の公訴時効があるが、米国には時効がない。藤本教授によると、米国では38州が刑法で死刑の規定を設け、13州が死刑を廃止。カリフォルニア州は、計画的な殺人を含む「第1級殺人」の最高刑は死刑。起訴されると地裁で陪審員が有罪か無罪かを判断し、有罪の評決なら職業裁判官が量刑を決める。無罪なら検察は控訴できず、そのまま確定するという。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080224k0000m040084000c.html


同じ事件について日本で裁判が行われ、無罪判決が確定したことに関してアメリカ当局が逮捕するというのは記事にも書いてありますが極めて珍しいことでしょう。日本とアメリカは犯罪人引渡し条約を結んでいますが、それによって引渡しを求めるのではなくてアメリカの管理下にある地域に来た時を狙って逮捕したというのも、この珍しい状況によるものでしょうか。
属地主義」と「属人主義」というのは犯罪捜査だけでなく国籍の認定などもそうかなと思いました。アメリカで生まれるとアメリカ国籍を得ることができるし、日本では日本人が親の場合に日本国籍を得るというのが原則だからです。