まだ人間じゃない生命
フィリップ・K・ディックの「まだ人間じゃない」という話は、中絶可能な期間が生後12歳未満になった世界を舞台にしています。これは中絶に反対する立場から書かれたようです。そして、その為に中絶可能な時期を極端に伸ばした世界を想定しているわけです。
これとは逆の設定を思い出しました。草上仁の「死刑!」という話です。異常なまでに生命の価値を重んじるイングリッチナ星が舞台です。そこに着陸した宇宙船から飛び出した若者は3匹のミミズに似た生物を踏み潰した罪で裁判にかけられます。そして生命は生命をもってしかあがなえないというイングリッチナの掟にしたがって、船の乗組員3人の死刑が宣告されました。ミミズ*1と人間の命を同等にあつかうというのも、生命の尊厳について極端な考え方でしょう。しかし、その極端な考え方のおかげで3人は助かります。無分別に船を飛び出した若者の、さらに無分別な行動が3人を救いました。ただその行動は、間接的ではありますがイングリッチナ星を滅ぼすことにもなりました。
まず、イングリッチナ人が、どんな小さな生命でも、自分たちの命と同等だと考えていたこと。
そして、一つの生命は、一つの生命でつぐなわなければならないと信じていたこと。ビックスのとんでもない行為が、死刑判決によって引き起こされたと、太守が思っているらしいこと。(「お喋りセッション」収録の「死刑!」より)
この話は、結果的に「まだ人間じゃない」と逆のパターンになっていますが、特に主張は込められていないと思います。
まだ人間じゃない (ハヤカワ文庫 SF テ 1-19 ディック傑作集)
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*1:正確にはミミズに似た生物