Log of ROYGB

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ドラム缶の形に似ている何か

http://d.hatena.ne.jp/trivial/20080607/1212820023の「本の面白さはドラム缶の形に似ているかもしれない - 一本足の蛸」に関して。

ドラム缶はほぼ円柱形なので、地面に立てれば上からは円に見え、横からは長方形に見える。いま、二人の人が一本のドラム巻を上と横から見たとき、一人は「このドラム缶はまるい」と言い、もう一人は「いや、このドラム缶はまるくない。角張っている」と言ったとしよう。どちらも間違ったことは言っていないが、だからといって「ドラム缶の形は見る人によって違うのだ」などと総括して、さらに「唯一無二の客観的な『ドラム缶の形』などというものはありはしないのだ。すべては見る人の主観によって決まる。いわば、ドラム缶の形は見る人の数だけ存在する!」などと言い立てられるとちょっと困る。それは無茶というものだ。

http://d.hatena.ne.jp/trivial/20080607/1212820023


これを読んで「あなたの人生の物語」を連想しました。テッド・チャンの書いたSF小説で、人類とは異なる認識を持つ異星人ヘプタポッドとの意思の疎通がメインです。そこにはこんなことも書かれています。

文脈が異なっているにすぎず、一方の妥当性が他方より優れているとか劣っているとかではない。錯覚を説明する有名な例に、鑑賞者から顔をそむけている優雅な若い女にも見えれば、あごが胸につくほどうつむいた団子鼻の老婆にも見えるという絵があるが、それに似たようなものだ。“正しい”解釈というものはなく、どちらも等しく妥当といえる。けれども、同時に両方を見ることはだれにもできない。

早川文庫あなたの人生の物語」263〜264ページより引用


これは本の面白さについて書かれたものではなく世界の解釈に関するものですが、引用した部分だけであれば本の面白さに関する説明として解釈することも可能でしょう。若い女と老婆のどちらにも見えるだまし絵のようなものはルビンの壷とか沢山あるし、文章でも小学生でも知っているであろう「ねえちゃんとお風呂に入ってる?」のようなものが沢山あるでしょう。でも意図せざるものについてはどうだろうかと少し考えました。「星の王子さま」に出てくる象を飲んだうわばみの絵のようなものは、意図せざるだまし絵といえるかもしれません。


あなたの人生の物語」に出てくるヘプタポッドには七本の肢があります。その様子は、一個の樽が七本の肢に接合されて宙に持ち上げられているように見えるそうです。そうすると肢を別にした大雑把な形はこんな感じです。上からは円に見え、横からは長方形に見える。