Log of ROYGB

はてなダイアリーが廃止されるので、引っ越しました。

兼業作家

http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20070313#p3にある『琥珀色の戯言 -「新人発掘能力が上がる」ことの功罪』に関して。そこで取り上げられているhttp://d.hatena.ne.jp/kanose/20070312/sfnovelnewfigureの「ARTIFACT@ハテナ系 - SF小説で新人発掘能力が下がっていった理由」などにも関連しています。

 「作家になりにくい時代」「デビューしにくい時代」は、「デビューできれば生き残れる可能性が高かった時代」であり、今日の「作家になりやすい時代」というのは、逆に「一度作家としてデビューしても、作家として食べ続けていくことは難しい時代」とも言えるでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20070313#p3


具体的な反論ではありませんが、昔も小説では食えない貧乏作家というのはいたように思います。別段専業作家でなくてはいけないわけではないし、兼業作家も多いのではないでしょうか。http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20070311/honyakuの「愛・蔵太の少し調べて書く日記 - 翻訳小説が出なくなる」では“翻訳者が翻訳して食っていけるか”ということについて書かれていますが、SF作家のP・K・ディックがタイヤの溝刻みリサイクル職人をやっていたことについても触れられています。まあ、こういったことは作家に限らず画家や音楽家、それに俳優などにもありそうです。日本の兼業SF作家としては草上仁梶尾真治がそうだったように記憶しています。ミステリ作家だと京極夏彦も友人の会社を手伝っていたとか、大学教員だった森博嗣などが思い浮かびます。


SF小説で新人発掘能力が下がったということにもそのまま納得できない感じがあります。ミステリなどでも冬の時代などという言い方がされますが、それが本当にあったのかを検証しようとするテキストも読んだことがあります。もっと一般的な例ではバブル後の失われた10年とかよく言いますが、それは具体的には何のことなのかを説明しているものは少なく感じるのと似たような印象です。
「SFアドベンチャー」の93年の休刊といっても創刊が79年なのだからそれ以前は無かったわけです。それ以外の無くなったSF雑誌としては、記憶にはありませんが「SF宝石」、それから新井素子がデビューした「奇想天外」や、「SFイズム」なんかがあったみたいです。
直接的な新人育成ということについては、「パラレルクリエーション」というのがあったようです。

ラクリについてはだいぶ前にちらっと書きました。
 ごくごく大雑把にいうと、地元の(実はシモキタではなく東北沢にお住いなのですが)豊田有恒せんせいが、若手SF作家たちに、互いに協力しあったり競争しあったりするような場を提供しよう! とおつくりになられた場所だったのです。コピー機とか、ゲーム機とか、その当時「出現したて」のハイテク器材も、いち早くそこでさわることができました。
 パラクリに所属していたメンツ、出入りしていたメンツを、おもいつくままにあげると、星敬さん、岬兄悟さん、火浦功さん、とりみきさん、ゆうきまさみさん、コマケンつまり小松左京研究会の面々、特撮関係の面々、SF関係各誌の編集部のかたがた……、そして豊田さんちの奥さん「チャコ」さんはじめてムスコさんたちムスメさんたちと、大原まり子姫。

http://maijar.org/sugoi/kumi/08.html

だから新人育成が無かったということでも無いように思いますが、このパラクリが存在したのは83年から91年のようです。
あとはホラー小説大賞の「パラサイト・イブ」や「玩具修理者」などはSFとしても通用するように思います。SF小説を求めているのでは無いところにもSFが出てくるのは、他に行くところが無かったからともいえますが、SFの一般社会への進出とも考えられます。まあSFなのかどうかという議論もあったようですが、個人的には「パラサイト・イブ」が駄目ならグレッグ・ベアの「ブラッド・ミュージック」はどうなんだとか、「玩具修理者」にはケチをつけることが出来ても「酔歩する男」には出来ないだろうと思います。
一般に認知されてベストセラーになったSFとしては「黄泉がえり」が思い浮かびます。新聞に連載したSF小説という点でも異例です。ただし、連載時はSF色が薄い物で、冒頭などに登場する謎の宇宙生命は後から加えられたようです。新聞に連載されたSF小説という点では、「朝のガスパール」が朝日新聞に連載していたのも90年代の初め頃だったように思います。新人発掘とは関係ないにしても、一般社会へのSFの浸透という面では評価できるのではないでしょうか。